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多摩川の河川敷に座って、川の様子を眺めていた。太陽は真上にあってギラギラした陽射しが降り注いでいるのに、どことなく辺りの様子は暗くて、川面はのっぺりとして波一つ立てておらず、水辺の煌々とした輝きも全く見える事がなかった。雲ははっきりとした形を結んで見える事はなかったけれど、まともに見る事の出来る筈もない太陽がいつもより膨らんでいるように見えた気がしたので、薄く伸びた雲が中天に掛かって光を透かしていたのかもしれない。
会社のあるビルが川岸の向こう側に見えていて、たくさんの窓から白い煙のようなものが立ち上っていた。それを見て、子供の頃に父親が運転する車の窓の外を見て教えてくれた、勤め先の工場の煙突から吐き出された煙の棚引いている様、幹線道路の傍に拡がった、草だけが茫々と生えている荒涼とした郊外の風景を連想するように思い出していた。
いつの間にか、自分の隣に女が一人、立っていた。女の顔は緑色とも青色ともつかない、土気色をしていて、今の会社の上司にも見えたし学生時代に住んでいたアパートの隣の部屋に住んでいた中国人の女のようにも見えた。
女は妙に甲高い声で「これに、乗らないと」と一言だけ言うと、自転車を自分の方に押しやって川上の方へスタスタと歩いてあっという間に視界から消えてしまった。自転車は前輪の空気が完全に抜けていて、これに乗る事は到底無理そうだなと思った。

クレヨンしんちゃんはテレ朝版よりも日テレ版の方が視ていて不安な気持ちになってくるけれど面白いという話を家族にした。夜中にテレビを視ていると、ビーフハートが昔月例でやっていたライブ映像の総集編が放送されていて「Ten Finger Mistery」という曲でビーフハートがめちゃくちゃにアナログシンセを弾いていて、それがかっこよかったので彼のすぐ背後の位置まで移動してメーカーの型番を確認させてもらった。
先日車が大破する事故を起こした母親は車には乗らないようきつく注意されていたらしいのだけど、監視の目をかいくぐって車で出かけてしまったらしく、祖母が「あれはだめだ、もう生きてない、死んじまった」と言うので演歌歌手が運転する車の後ろに乗ってとにかく母親が行きそうな場所に行こうとしたのだけど、演歌歌手はヤクザに借金の取り立てで追われていると言ったかと思うと運転中に車から飛び降りてしまったのでどうにか運転席に移ってそのまま運転して事故を起こさずに済んだ。

夢の周縁

ファミリーレストランで酒を飲んでから東京に帰ろうとすると、母親の知り合いだという幽霊みたいな顔をした営業の女が代金を今から指定する方法で払って欲しいと話しかけてきた。直接手渡せばいいのに、面倒な手順を指定してくるので、ノートにメモしようと開くと、エロ本がスクラップされていて他人に見せられる状態ではなかったので、仕方なく実家の居間にあるコピー用紙を持ってきてそれにメモをしていたら夜中の二時になってしまった。辺りは太陽もないのに真昼のように眩しいけどもう東京行きのバスはとっくにないので諦めて実家に戻って家の中を片付けていると、自転車に乗った人影が庭に入ってきて家の建物の周りをぐるぐる廻っているのが薄いガラス戸越しに見えた。だんだん怖くなってきたのでその場に固まって動けなくなっているうちに、自転車で家の周りを廻る人はあと三人ばかり増えたかと思うと、新聞受けに大量のチラシを突っ込んでどこかへいなくなった。

父親が裏庭に大量に捨ててある空き缶を拾って処理している横で顔の黄色い老人が何かをしきりに話していたようだけど自分が近付くとさっとその場を離れてどこかへ行ってしまった。父親は「自治会長になってくれとしつこいんだ」とうるさそうに言った。

空き缶が地面に埋まった道を歩きながら母屋に戻る途中、大きな陸橋の下を通り抜けた先に小さな休耕田があって、疲れていたのでそこに蒲団を敷いて横になりながら抜けるような雲ひとつない青空を見ていた。周りの田圃には水が張られ鴨がたくさん泳いでいる。空にも大小様々な大きさの鳥がたくさん飛んでいて、鷹や鷲が時折猛スピードで急降下しながら小さな鳥を鋭い爪で捕え、そのまま 地面に落下していくのが遠目にも細部まではっきりと見えた。

そのうち自分の丁度寝ている真上からパラシュートで降りてくる影が五つ六つ見えてきた。ほとんどは地面に落ちてくる前に自分の視界の外に外れて見えなくなってしまったけど、一つだけ蒲団のすぐ近くに生えていた大木に引っかかっていたような気がしてならなかったので、起き上がって様子を見に行くと、蜘蛛の糸に絡め取られたように痩せこけた裸の老人がパラシュートの紐に絡まって死んでいた。